IT会社 ORC小倉社長が講演
「これからの中国とどう付き合うか」しっかりした設計書に基づき仕事をする

司会の挨拶

司会はNPO法人中央区日中の佐々木昭二理事長

皆さん、こんばんわ。定刻になりましたのでこれから始めたいと思います。
中央区日中友好協会は昨年10月に立ち上げ、今年3月にNPO法人になりました。
今後の直近の行事予定として、「餃子づくりの会」、元東大教授の「中国問題講演会」 などを考えております。

私達の会の上部組織は、NPO東京都日中友好協会と(社)日中友好協会です。

今回の小倉社長の講演は、IT、ソフト開発の取引での、実際の経験からお話して いただきます。

小倉社長は、IT関連の会社を幾つも経営され、中国の会社と人事の交流など実際 の取引をされています。
本日はそうした経験から「これからの中国とどう付き合うか」ということで お話を伺います。私は、日本IBMにいたころ、小倉社長には大変お世話になりました。
今回も快く引き受けていただき大変ありがたく思っています。

講演を引き受けた経緯

小倉社長の講演、開始

ORC小倉社長

ただいま、ご紹介いただきましたオープンリソースの小倉です。
今佐々木さんからもお話しがありましたが、佐々木さんとの関わりにつきましては、実は私が会社を起業した際、二十、二、三年前になりますが、その当時IBMさんとのお仕事を色々とご一緒させていただきました。ですから私の方が本当にお世 話になったと思っております。ある面では、会社がスタート出来たのも、 佐々木さんのおかげだと思っております。

私の友人がつい最近、めでたくIBMを退職するということで集まりがあった際、 久しぶりに佐々木さんにお会いしました。色々とお話しさせていただいた中で、少し中国の仕事に関係している、ということをお話ししましたら、 是非話をして下さい、ということになりました。 中国に関しては、それ程深い経験をしているわけでもありませんので、皆様に何をお話し出来るだろうかと迷ったのですが、お受けすることにいたしました。

本日の題材「これからの中国とどのように付き合うか」というのは、大変大それた 題目ではありますが、私の経験したことを中心に、その範囲でお話しさせていただければと思います。

中国のビジネスの仲間も同席
チャイナポータルの齊藤さんとハル工房の舟岡さん

また、本日、後程紹介させていただきますが、チャイナポータルの齊藤さんと ハル工房の舟岡さんにも来てもらっております。二人とも私より中国のビジネスについては幅も広く奥も深いところがありますので、私は出来るだけ簡潔にお話 をさせていただき、質疑応答の時間を持つようにしたいと思います。その時に私ではカバー出来ないような質問に対しても、答えられることについては三人で 一緒に答えていければと思います。

1、私達の会社について簡単に紹介

 スコア、オープンリソース、オープンワークス、チャイナポータル

最初に、私達のバックグラウンドを理解していただく意味で、少し会社のことに ついて簡単にご説明をさせていただきたいと思います。

現在、グループとしては全部で4つの会社があります。元となる会社は 株式会社スコアです。この会社は、量販店のオリンピックのシステム企画、 システム全般のアウトソーシングを担当しています。一番最初に佐々木さんにお世話になったのがこの会社で、その後、幅広くIBMさん とお付き合いをしていただきました。 元々は私の資本の会社でしたが、現在は内部統制上の問題もあり、オリンピックに100%連結している会社にしております。スコアはオリンピックの仕事だけではなく、 他のお客様の仕事もしておりました。 他のお客様の受け皿会社として、オープンワークスという会社を設立。7年程になります。オリンピックが小売の業態ですので、どちらかというと小売、流通、あるいはサービスと いったところを中心としたビジネスをさせていただいております。

オープンリソースという会社は元々人材提供型のビジネスをやっていこうということで スタートし、13年程になる会社です。 資本関係でいうと、オープンワークス、オープンリソースは資本関係があるのですが、スコアは全く無関係です。オープンリソースとオープンワークスは合併はしておりませんが 機能統合しており、一つの会社のような形で運営しています。

チャイナポータルは、関連会社という形で一緒にビジネスをしていこうとしております。 チャイナポータル社長の齊藤さんは、その会社名がついている様に中国ビジネスを長くやってきています。私がオフショアのビジネスを始めたきっかけが、齊藤さんです。

私達のグループは、スコアがどちらかというとオリンピックグループ単独にやっている 会社で、その他の3つがそれ以外のところに向けてオフショアのビジネスを含め、お客様にソリューションを提供している会社であるとご理解いただければと思います。

次に、IT会社として、どのようなビジネスをやっているかをご説明します。

「業務プロセス」という言葉を使う意味

ここで、「業務プロセス」という言葉と、「ITインフラ」という言葉を使います。 「業務プロセス」は、いわば、アプリケーションエリアと考えて下さい。何故この言葉を使っているかと申しますと、お客様の業務に関わる仕事について、 日本の会社は、結構、業務のプロセスを明確に規定されないまま動いている会社が多いです。実はそういった会社でも暗黙のプロセスは全部決まっていまして、業務のシステムを作る場合、 この現状のプロセスに基づいて作ってしまうケースが多いと思います。このプロセスを見てみますと、本当はいらないプロセスがあったり、逆に入っていなけ ればならないプロセスが入っていなかったり、ということが、お客様との話し合いの中でわかってきます。これについては、お客様がどのように改革していこうかという意識 との関連があり、必ずしも私達が提言するような形にはならないのですが、ただ、私達自身はここを一度整理してからシステム化をすべきだということを、いつも申し上げて おります。これからもそういう考え方で、お客様に向かっていくつもりです。そういった意味で「業務プロセス」という言葉を使っています。

「ITインフラ」構成、非常に重要

「ITインフラ」という言葉ですが、これはいわゆるハードウェアやOSを含むミドルウェア などをどのように構成するかということになるのですが、昨今は内部統制の問題や情報セキュリティの問題がありまして、そういった中でどのような構成にしていけば良いのか、 或いは維持をどのように考えていけば良いのか、といったことをしっかりと定義されることが必要になってきていると思います。そこを適切に定義することにより、維持費用を非常 に安く出来る様になってきているのは事実だと思います。そういった意味で、このITインフラをどのように構成していくのかが非常に重要になってきていると思います。

お客様から見ると、こういったアプリケーションとITインフラの形をどのようにするかという ことについて言えば、あまり境がないわけでして、両方があってはじめて良い結果が出るのだと思います。そういった中で、両方を理解しているということは非常に重要ではない かという考えを持ちました。

その中で、私達はお客様にもこの様に申し上げています。「維持のエリアが非常に重要 である」と。何故かと申しますと、この部分でお客様はビジネスをされているからです。ですので、この維持のエリアをよく知ること、即ち現場のことをよく知ることが大変重要 です。このことが改善に繋がりますし、改善することによって更に維持を考えた改善が出来ます。再構築の仕事のお話もこういったところから出てきます。

従って、維持のことを考えるシステム構築が出来、また維持に繋がる、ということが 出来れば、お客様との長期的な信頼関係が出来ていくと思います。私達のビジネスに向けての基本です。

次に、本日は中国に関するお話ということですが、ご承知の通り中国は大変に経済が 発展してきております。そのことと、今後のビジネスのあり方はどうなんだろうとか、或いは日本のビジネス全般と中国の関わりは今後どうなっていくべきなのだろうかとか、 そういったことについて総括して論じることについては、私は評論家でもありませんし、知見も持ち合わせておりませんのでご容赦いただきたいと思います。 私の経験している範囲の中で、概括的にどのようなことをやってきたかということを 簡単にご紹介させていただきたいと思います。

2、初めての中国及び最近の中国

最初に、私自身がどのような形で中国の人達や文化、あるいは中国自身と関わって きたかということを申し上げます。

一番最初は1990年代の前半だったと思いますが、私の知人に非常に中国通な友人が おりまして、その人の勧めで中国に行きました。きっかけは、私の友人の知人が中国、深(シンセン)の工場長として働いており、そこへ訪ねるという事になりました。その工場は韓国の会社の深工場で、部品としてのピンとベアリングを製造していました。

を訪問した後、上海と北京まで回ってきました。1990年代の前半ということで、 最初の印象は、労働賃金がどのくらいだったかはよく覚えておりませんが、工場を見学させてもらった時に、労働者がいわば監視されているような形で働かされている というような印象を持ちました。 要するに、自分の場所から少しでも離れる場合には全部許可がいるような、そういう印象を持ちました。勿論、道路から中へは門が閉ざされており絶対に出入りはでき ないような、そんな感じでした。非常に堅苦しい印象でした。実はその前の日が香港だったもので、香港と比べてみたら全く自由がない、そんな印象でしたね。上海、 北京に行った時も、街には公安がいっぱい立ってる感じで、何か見張られているというような感じが私自身はしました。ですから、中国にまた来たいという思いも全くなく 何となく日本に戻ってきたような記憶が最初の時でした。

2回目は、2000年、あるいは少し前だったかはっきり覚えていないんですが、 これもやはり私の友人が中国の上海に、上海交通学(大変優秀な大学です)と合弁でソフトウェアの会社を作りたいということで、そこへ出資する持ち株会社に若干出資を しました。そんな経緯で上海に出かける事になりました。

最初に合弁会社に委託した仕事は、多分百貨店の購買管理か何かのシステムで、 四、五千万円くらいのそこそこの規模のシステムでした。

上海の現地会社で最初に会議を持った時、トラブルが発生していました。中国側の エンジニアは、仕様が毎日変わっていく、だからこんなのやってられない、というような言い方をしておりました。日本側の要件の詰め方がとても甘かったのではないかと 思いました。

私はそんなに深く見たわけではありませんでしたが、何より仕様が全く凍結されて いないという印象でした。ここは後でも少し触れますが、中国にシステムの仕事を出す時の仕事のあり方はどうあるべきかということにも絡んでくるんですが、最近は、少し 変わってきたかもしれないんですが、やはり、その時の印象は、中国の人達は言われたことをちゃんとやったからいいんだと、極端に言えば内容はどうでも結果はどうでも いいんだという考えでした。ですから、そういった状況で何度も何度もやりとりがあったようで、結局、このプロジェクトは失敗に終りました。そして数年先にこの会社もクロー ズすることになりました。私の方も資本金を戻してもらって2回目の経験は終りました。

3回目の経験ですが、実は、先程紹介いたしました、チャイナポータルの齊藤さんの 紹介で、中国のオフショア会社の社長を知りました。その時は大変前向きで、一生懸命で、何でもやるという印象でした。本当に、良い印象を受けました。彼自身は 日本に留学し、それから大学院も出て日本の会社に入り、それから中国へ戻って、丁度その時は自分の会社を立ち上げたところでした。

ソフトウェアの仕事というのは、最初に色々な要件を決め基本設計をし、それから、 プログラミングをしていきますが、プロセスを進める中では仕様漏れがどんどん出てきます。

そのプログラミングのところで「その漏れを全部受け入れなければシステムは動か ない。責任を持って受けるんだ。」というような言い方を彼がしたのがとても印象に残り、これだったら委託をするだけではなく、共同で仕事がやれると思いました。 そこで、トライアルとして最初に小さなシステムでしたが、仕事を出したのが、彼の会社との最初のきっかけでした。

それ以後、この会社と、取引開始が2004年ですから、もう6年も続いています。 昨年あたりはリーマンショックの影響で仕事が大変減りましたので、昨年は仕事を出しきれていないですが、イコール・パートナーという形は変わらず今に至っている というのが、私の中国との関係の少しうまくいった概括的な関連であります。

一方、中国の影響力ということですが、これはもう皆さんもよくご存知の通り、 一昨年の秋にリーマンショックがありまして、世界同時不況がありました。これで、日本がもしかしたら一番影響を受けたかもしれません。 しかし、昨年から今年にかけて、日本の経済もかなり戻ってきていると思いますが、 その一番の理由は多分中国の経済に負うところが多いんだろうと思います。

国民総生産について最近よく話が出てきますが、2010年、今年は円高の関係が あり、ドル換算になると日本は得をしていますが、今年か来年ぐらいには、日本と中国のGDPが同じになるという様に言われていますね。アメリカとはどうかというと、 2020年から2025年位になると、中国がアメリカに追いつくかもしれないと。

その頃は多分日本は中国の4分の1位になっているんですね。もっと下がっている かもしれません。このことは事実として受け入れなければいけないんですが、どう捉えていくかについて私は、日本としての大きな課題じゃないかと思います。 日本がどのように生きていくのか、ということの裏返しのような気も致します。そのことは、私からあまり申し上げるようなことではないんですが、そのような感じを 持っております。

3、私達のオフショアビジネス

ORC小倉社長

いよいよ本題のことについて少しお話をさせていただきます。 私達がこのオフショアビジネスを具体的にどの様に進めてきたかという事について、 少しお話をさせていただきたいと思います。

皆さんもご存知の方も沢山いらっしゃると思いますし、或いはあまり聞いたことのない 方も中にはいらっしゃるかもしれません。オフショアビジネスとは何なのかということについて、最初に整理をしておきたいと思います。

オフショアという言葉は、沿岸ということで特に日本の対岸の、それが中国であったり、 そういうような意味で別に中国だけではなくベトナムですとか勿論インドとか、人件費が安いところへ仕事を出していくというような形で、オフショアリングという言葉を使って いました。そのような形のことを総称して、オフショアビジネスと言っています。

一番のポイントは、人件費の差に着目して、当たり前の話なんですが、中国の人件費と 日本の人件費は、今でこそ大分縮まってきていますが今ですと4倍か5倍くらいでしょうか。これ位の差になってきています。これからどんどん縮まっていくのは分かってはいま すが、そこに焦点を当てていると。ソフトウェア開発におけるボリュームのあるエリア、これはどこかというと、開発、プログラミング等、実装といわれるプログラミングのところで すが、そこを中国側が担当することで全体のコスト削減に貢献させる、これが一番の目的です。それが元々の一番の出発点だったと思います。

最近、今年あたりの状況を見てみますと、IT業界は大変厳しいビジネス状況です。 何故かと言うと実はオフショア、即ち、中国に仕事が今年あたり沢山出ているんですね。ということは、日本の中の実装と呼ばれるプログラミングの仕事は圧倒的に減っている のです。具体的に申し上げますと、中国の人月単価は大体25万円位から30万円取っているところもありますが、この人月単価は中国の人件費に比べると結構高い 金額です。そんなに思った程は安くはありません。

最近ニアショアという言葉も聞かれます。ニアショアというのは日本国内の地方に 開発の仕事を出すという考え方です。最近ですと下手をすると人月単価で40万円あるいは40万円をきっても受けるような会社が出てきているということです。 そういった意味で、中国との差がだんだん縮まってきている。それは逆にいうと、30万円からあるいは40万円以下で本当に日本のIT業界はそれでいいのかという事 の裏返しでもあるのです。実態としての問題点はそういうところにあります。これが2点目です。

3点目は、日本から見た時のビジネスのリスクをうまくハンドリング出来るかという点が あります。例えば、お金を払う事についてのリスクというのは逆に、委託した仕事が終わらないと払わなくて良いわけですから、全部が全部そういうことではないのですが、 真の一番のリスクポイントは、きっちり仕事をどのようにやるのかという点につきると思います。

逆のビジネス即ち、中国で売り上げを上げていくには中国に法人を作っていかないと、 なかなか中国から日本にお金を持ってくるのは今でも大変難しく、その為に香港に中間的な会社を作っているような会社もありますが、そこについては、中国の中で どうやって売り上げを上げていくかも含めて非常に難しく、またリスクを持っているビジネスと思います。

私の方はあくまでもITのオフショアビジネスですから、一方通行、即ち輸入です。 ですから、そういった意味では後程少し触れますが、あまりリスクはないと言えます。一番のリスクは上手くいくかどうか、どうやって担保するかという所だと思います。

その時のキープロセスは何かということで、私は3点あげたいと思います。 1点目は「ビジネスのプロセス」。2点目は「プロジェクトのプロセス」。3点目は「融合のプロセス」です。 1点目の「ビジネスのプロセス」というのは最終的にはビジネス全体をカバーしますが、 少し狭義のビジネス、要するにどのような契約を取り交わしどうやってお金を回収していくのかという点がポイントです。

2点目の「プロジェクトのプロセス」、これが一番大事ですが、どうやって仕事を相手に 頼んで、どうやって上手く仕事をさせていくのか、これが一番重要です。

それから3点目の「融合のプロセス」。これが大変難しい点です。 どうやって融合して、どうやって協力して、どうやって結果を出していくのか。 特にソフトウェアは人が全部関わってきますから、そこをどうやって上手くやれるか、意外と重要なポイントと思います。これについては後でまた触れさせていただきたいと 思います。

先程「ビジネスのプロセス」と申し上げましたが、私達はどの様にやったかというと、 それ程難しくはありませんでした。業務提携に近い基本契約書を日本の書式で結びました。当然のことながら、例えば、実際そうなったらどうなるかは別にして、 裁判所も日本の裁判所を使うというような形で、和文で中国の会社との間の契約を結びました。見積りとか決済は元ではなく円で行いました。中国側が為替のリスクを 持つ形でした。これは大体一般的な取引条件です。ITのソフトウェアのビジネスについては概ね一般的なやり方です。

支払い契約、受入検収条件は、通常請負がベースです。請負ですから、検収をして、 検収が終わったら支払いをする。円で契約をしていますから、円を元に変えて、送金をする。これだけです。送金の手数料は若干高いですが、それで終わりです。

当然委任契約のような、月当りで、例えば日本に中国のPGとかSEに来てもらって契約 する場合もあります。それは月毎に精算をして、月の中で評価をして、時間精算するものは時間精算して、日本の企業の間と同じようなやり方で処理をしているという形です。 他の会社でも同様だと思います。

一方、最近は、中国の会社も日本法人を大分作ってきています。ほとんど、中国の大きな 会社は日本法人を作っていますから、日本法人との間の契約ということになりますので、こうなるとほとんど日本の会社との契約関係です。

ですからもし皆様がオフショアビジネスを始めるとしても、色々な処理の仕方があります ので心配はないと思います。私達も今迄問題なくやってきて、これに関連するトラブルは何も起こっておりません。大事な事は先程申し上げたように「プロジェクトのプロセス」 で、ここが大変難しい所だと思います。

役割分担を明確にする中で、通常は、中国側で担当するのは一般的には、その開発 フェーズが、皆様ご存知の方も多いと思いますが、要件定義とか、それから基本設計のフェーズですとか、或いは詳細設計ですとか、或いは、詳細設計に対応する プログラミング、単体テスト、それから、結合テスト、総合テスト、全体の受け入れテストの様なものがあるとすれば、通常は詳細設計、プログラミングという所と、単体テストを お願いするのが一般的です。

そこが一番量を稼ぐため、そこがスムーズにいくと大変成功します。しかし、一番の 問題はやはり前段の要件とか、基本設計がブレないかどうかという事です。これがブレてしまうとやり直しになってコストが二重にかかって、結果として儲からない という事になります。こういうケースが非常に過去多かったんだと思います。

最近はSierの会社も,成功している会社はどうやっているのかというと、もうガチガチに 枠を決めてやっています。要件だけは日本の責任ですから、そこが本当にできているかどうかが重要です。この精度アップのためにやらなければならない事が色々ある様に 思います。良く取る方法として要件のすり合わせをするために、中国のSEの人達を日本に連れてきて、日本側の所謂ブリッジSEという形の中ですり合わせをしていく、 それから、中国へ詳細設計以降のプロセスを出すというのが一般的に取られている方法です。ある程度はやむを得ないんですが、この量が増えれば増える程、中国人を 日本に持ってくるとコストが日本人と同じコストがかかってしまいます。人月単価で60万円、70万円です。

それは滞在費の問題もありますし、往復の交通費もあります。そうすると、何のための オフショアビジネスなのかという事になります。従って、基本的には精度アップのために自分達が要件を握れるような所、あるいは絶対に押さえる事ができるエリア、例えば パッケージなんかもそうかもしれません。或いは、アウトソーシングしている業務の内容ですとか、そういったような、絶対におさえられる内容にまずは限定すべきではないかと 思います。それがあれば、極端に言えば、ある程度コミュニケーションの仕組みが必要ですが、出来る限り中国で基本設計から実施できるようにし、その上で実装について 中国で作業をしてもらう。これをやっていかないとメリットは出てこないと思います。ですから、そういった意味では、色々な工夫が最近されてきています。最近結構、 このような事例が出てきているのは、上位のプロセスのまとめ方を工夫しているからだと思います。

課題としては今言った話の裏返しなんですが、日本のユーザーと例えば私達のような ソフトウェア会社が要件を決め、基本設計をして中国に渡していく際に、日本のユーザーがどこまで決められるかという問題があります。 ですから、それがきっちり決められるユーザーでないと向いていないということになります。 自分達がその要件を握れるか、お客様がしっかりしていて要件を本当に決められるか、このどちらかが必要だと強く思います。ブリッジSEをどんどん大量に投入していきますと、 コストがどんどん上がっていきますし、要件があいまいだと仕様漏れが沢山出てやり直しが出て、コストが上がってしまうということです。

以上が解決したとして、このままで良いのかと思います。実は何が問題かというと、 このオフショアモデルは長くは続かないだろうと思うわけです。 何故なら、1つは中国の元の切り上げの問題があります。元が切り上げになると中国自体が見積金額(円ベース)を上げてくれと言ってくるわけです。それともう一つはやはり、人件 費がどうしても今後上がっていくだろうと。この二つは解決できない問題になると思います。この先、4、5年、5、6年先を見た時に大きな問題になると思います。

その為に、もっと他の国に持ってこう、例えばベトナムとかラオスとかですね、 そういう話も勿論あるのですが、一方では、中国人は大変優秀な人も多いです。それは当然のことながら人口が多いですから。比率として、10%が優秀だとすると日本の 13倍か15倍も優秀な人がいる事になります。そういう人達を上手く使っていくという視点も必要ではないかと思います。

実は私一つだけトライアルをした事があります。あるPOSメーカーのカストマイズの開発 作業がありました。話があった時にはもう納期が迫っていて、どうしてもやってくれる会社がないという事で、そこの社長から連絡があり、その時彼はまだ副社長だったんですが、 どうしても一緒に考えてくれという話でした。色々考えたんですが、何が問題だったかというと、標準的なドキュメンテーションは何もないという点でした。大変お恥ずかしい話 かもしれません。それから標準的なソフトウェアは何なのかもよくはっきりしていない。れに対してカストマイズという話でした。とても無理だとは思いましたが、実はそれを 聞いた時に、この仕事を業務提携している中国の会社に丸投げで整理してもらおうと思いつきました。整理されていないドキュメンテーションもソフトウェアも全部渡して勿論 私達は相手の会社と基本的な契約と再委託の基本的な了解のもとに全部投げて、詳細設計、基本設計までとはいかないのですが、基本設計と詳細設計の中間レベルまで 全部書き起こしてもらいました。何が正なのかという所もやってもらいました。1ケ月から2ケ月の間にドキュメンテーションとソフトウエアの整理をしてもらいました。その後は 私達もPMを付けましたが中国のSE、メーカーのSE、そして私達のPMで毎日毎日レビューをして標準仕様を確定しました。それから、お客様向けのカストマイズ、これは 何を変えたいのかは分かっていたので、それに追加する内容の打ち合わせをし、仕様の定義とドキュメンテーション化を実行し、お客さんと確認して、それから製造に入って もらいました。結果は大変上手くいきました。バグはゼロではなかったんですけれども、ほとんどバグゼロに近い形で終了しました。中国の人は見方を変えると大変能力が あると思います。例えばプログラムを作るスピードが物凄く早いとか。方向さえ間違えなければ凄い能力を発揮するエリアがあると思います。今後この能力を活かしてくべき ではないかと思いました。

基本設計、実際にはそんなに簡単な事ではないんです。しかし、基本設計を共同で やる。例えば基本設計の前の要件定義でもいいですね。お客さんと仕様を決めるのに、実際に画面の動きを先に見せちゃう。それを中国側で先に作り日本に持ってきて、 お客さんとやりとりをする。それからお客さんの要望に基づく変更はまた全部中国でやってもらう。このような形で仕様を決めていくと、要件が紙に書いたものではなく、 実際に目に見える形で決まっていく。全ての物がそういう形で決まっていく訳ではありませんが、できるものもありますから、そうした時にやはりお客さんに先に確認が 取れていくことは、仕様のブレが少なくなっていく事につながります。お客さんも自分で決めたという意識があるので、やはりそれを守ろうとしてくれる。これを一緒にやるという ような所に中国の人を中国国内でもっと使えるとすれば、オフショアのコストはもっともっと抑えられます。これからの中国の活かし方として考えなければならない点に つながると思います。

最後に「融合のプロセス」ということに触れさせていただきたいと思います。融合、いわ ゆるチームワークをどうやって中国の人達と持つかということなんですが、一般的に言いますと私達の社員もそうですが、日本のIT技術者はオフショアビジネスに抵抗感を凄く 持っています。これはつまりツーカーでは中国の人との意思疎通はできないからだと思うからです。そういう人間関係で仕事をしているのは日本の社会の根っこかもしれま せんが、日本はすり合わせ文化ですから、ここは直らないかもしれません。どちらかというと決めなければいけない仕様の定義を、後でいいや後で決めようというような形で 曖昧にして後で人間関係で補ってすり合わせをしていくのはどうしても日本の、逆に言うとある面での良さなのかもしれません。今後どうすべきかは色々な意見が ある所だと思います。私は逆に、こういった事を変えるためにもオフショアのプロセスを入れたら良いのではないかと思いました。オフショアのプロセスを入れる事は、曖昧に したら絶対に上手くいかないんですね。はっきり決めていかなければいけません。そういうような仕事のやり方に変えていく必要性がある、とトライアルが終わった時、 このような考え方を持ちました。

皆の考え方を変えていくためには、やはり成功事例を増やしていくことが重要です。 成功事例を増やして、それで、やってよかったんだなというような思いを皆がしていくという事が必要かと思います。

3年ぐらい前から一昨年にかけては、たまたま5、6千万ぐらいの仕事をオフショア会社 に出して、これは非常に良い結果で終わりました。もしこのオフショアを使わなければ、凄い赤字になったんだなという様にも感じております。もう一つこの融合のプロセスのた めに、もう5年位になりますが、今のオフショアの開発をお願いしている会社と社員交換制度というものをやっています。これは私達の社員を、相手の会社に、上海ですけど、 送り込んで、相手の社員が私どもに来て、対価はお互い求めないで実を上げようという制度です。それぞれの社員は相手の会社の仕事をやっていくという事です。これをする ことにより皆の意識、理解をまず向上させて、お互いを知ろうという事が目的で実施しました。最初は1名が2年間相手の会社に出向し、その後は1名が出向中で今年で3年目 です。来年の2月には戻ってくる予定です。最初の時は、希望者を募集したら誰もおりませんでした。これでは制度が上手く成り立たないということで該当者を指名しました。よく 話をして出向してもらったんですが、2回目の時は手を挙げる人間が出てきました。複数名から1名を選抜しました。今後更に続けていくかどうかはまだ決めてはいないんですが、 本人にとっては大変良い経験になるのではないかと思います。私は出向者とは1年に数回しか話をしないですが、一番最近会った時は、私は中国語を何としてもマスターす るんだ、というような言い方をしていました。一番最初に行った人間はほとんど中国語をマスターしないで帰ってきたんですが、全く自分達の知らない仲間の中に置かれて、 中国語、日本語も勿論通じるのですけれども、そういった中国の社会の中でやってくるというのは、本人にとっては非常に良い経験だったのではないかと思います。

4、終りに

以上がオフショアビジネスをやってきた一番最初のきっかけと、内容と感想、それから 今後についての課題も少し申し上げたという事であります。最後になりますが、中国は先程のお話ではありませんが、来年ぐらいには日本の国民総生産を追い抜いてくという 事です。もしかしたら2020年、25年にはアメリカに追いついていくと。そういった意味では大変巨大な国になっていくと思います。この先政治体制がどうなっていくのかは よくわかりませんが、今の延長でいくと確実に巨大な国になっていくでしょう。

一方でもう一つ言えることは、中国も大変成長しているという事です。 私が2、3年ぐらい前に、野村総研の方と、その方の友達の中国の会社の社長と私の3人で話した時に、北京で、中国のセブンイレブンの仕事は中国の会社に全て委託されている という話をしていました。その時に彼が言ったのは、最近中国の人の中国の会社の力が凄くついてきて怖いんだよと。だから、仕事を出す時も全部1社には出さないようにしている という事でした。3つに分けて3つ位の会社に出す、というような言い方をしていました。確かに、中国は凄く力をつけてきていると思います。こういった中で最後に私達はどうする のだろうかと思います。大変閉塞感がある政治状況もありますが私はやはり、明治維新の時の若い日本人の台頭とか、それから戦後の日本の高度経済成長を成し遂げた事とか、 日本の持っている元々の力というものは変わっていないと思います。やはり、私達自身中国とのことを意識するのではなく、考え方を常に発信し、私達が何をすべきかとい う事を意識して行動する事のみが、道が開ける事につながると思います。

大変拙いお話で恐縮しております。
ありがとうございました。

(拍手)

記念撮影

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