食生活の劣化
エンゲル係数が、ジワジワと上がっている。20年前には、20%台の前半だったが、最近は30%を超えている。
政府の「家計調査」によれば、2004年4月は21.8%だったが、昨年の12月には31.3%になった。これは異常である。日本の食生活に何が起きているか。
教科書を見ると、経済が発展して所得が増えると、エンゲル係数は小さくなる、と書いてある。何故なら、経済が発展した国は、食糧は充分に食べているので、増えた分は食糧に支出するのではなく、食糧以外に支出するからだ、という。
日本は、発展途上国に逆戻りしたのか。そうかも知れない。
上の図は、近年の食糧消費の状況を示したものである。2000年1月から今年の5月までの月ごとの状況を対象にした。
各指標とも、激しい季節変動があるので、12か月移動平均で平滑化したものである。例えば、今年5月の点は、昨年6月からの12か月間の平均である。また、この期間の物価変動を除去するために、価格は価格指数で実質化した。その上で、2000年12月を100として指数化した。
縦目盛は対数目盛にした。各指標の増加率と減少率を、各指標線の傾斜度で忠実に示すためである。
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この図で注目すべきことは、食糧価格が高騰していることと、エンゲル係数が上昇していることである。
これは、食糧価格の高騰を原因にして、食糧への支出額を増やしたことを表している。そして、そのために食糧以外の支出額を大幅に減らすしかなかったことを表している。
それほどまでに、家計は脆弱だったのか。ここには、図で示したように、家計所得の低迷がある。そして、その根源に賃金の低迷がある。
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食糧への支出を増やし、その結果としてエンゲル係数を大きくしたのだが、その結果、食生活はこれまでの豊かさを維持できたか。家計には、それほどの余裕はなかった、というのが実態である。食糧以外への支出も減らしたし、食糧への支出も実質的には減らしたのである。
そのことを示したのが、図の中の実質消費量の減少である。
このように、日本人の食生活は、以前より貧しくなった。日本の食生活は劣化している。
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これは、食糧の購入数量を減らしたのではなく、購入単価が安い食糧を選択したのである。そしてこれは、購入する食糧の品質を下げたことを意味する。(文末の【統計学注】を参照)
いま、日本の食生活は劣化している。これは、食糧の供給源である農業に、直接かかわっている。
農業の第一義的な使命は、良質で安価な食糧を国民に提供することにある。だが、その使命が十全に果たされていない。
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もう1つ。この図から分かることは、この状態が、20年間もの長い期間を通じて見られることである。このことは、劣化の主要な原因は、コロナ禍でもないし、ウクライナ紛争でもない、ということである。この2つは、劣化を加速させただけである。
つまり、近年の食生活の劣化の原因を、不可抗力的な、この2つだけに押し付けることはできない、ということである。
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その一方で、ウクライナ紛争を原因にして、地球規模での食糧安保が叫ばれている。日本も、その例外ではない。だが、日本には緊張感がない。
日本はウクライナから遠い、というだけではない。日本には、それ以外の誤った考えがある。食糧安保に対して、輸入といワクチンで抗体ができ、予防ができている、と誤って思い込んでいる。
だが、そうではない。真の原因は、食糧経済が劣化を続けてきたことにある。その底流には、日本経済の劣化が深く進行している。ウクライナ紛争は、この動きを加速させただけだ、とも言える。これは由々しき問題である。
この劣化は、いつまで続くのか。続けるのか。
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日本の食生活に、以前のような豊かさを取り戻さねばならない。そのためには、経済政策を、ことに食生活の源流になる農業政策を、根本的に検討し、再建するしかない。
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【統計学注】 数量指数について
食糧支出金額を、食糧の購入価格で割り算したものを、食糧の購入数量にしたが、これは、
支出金額 = 購入価格 X 購入数量
つまり、
購入数量 = 支出金額 ÷ 購入価格 (= 消費量)
という点で問題はない。
しかし、長期でみるとき、価格指数には問題がある。価格指数は、買い物籠に入れられた、或る平均的な商品群の価格から算出するものである。購入数量は、その買い物籠を何個買ったことになるか、という仮想の計算の結果である。この平均的な商品群は、長期的には実態から乖離する。だから、ときどき是正しなければならない。
ここでは、購入数量を平均的な商品群の数ではなく、買い物籠の内容が以前と変わった、とみるべきである。それに伴って、買った物の品質が変わった、とみるべきである。
. (2023.08.07 JAcom から転載)