中国東北部の経済特区・大連市の郊外の農場を訪ねました。家族経営の農場で、50歳台の方で農場主の奥さんという責任者(農場の女性主人)が応対。彼女は農場の共産党組織(3人よりなる)の書記であり、地域の農業指導をしながら農業に従事しているということでした。
中国大連でも改革開放により家族農業経営ができるようになり、ここでは30余年まえに青年時、この方が家族経営農業を申請し、今に至っているそうです。
旦那さんは共産党に入党されてないが、協力共同して5人の農業従事者を雇用しながら農場経営をしているということでした。
この家族経営農場の場合も人民公社の傘下にあり、農地は集落村民委員会が保有、この保有農地を村落の生産隊の判断を経て、家族農業者に貸し渡す。家族農業グループは、生産小隊ということで、実際の農業を営み、生産から売りさばきまでを担っているということです。
生産物は農業協同組合を通じた売りさばきでも自由ルートでも良いようで、この農場は卸業者を通じて売りさばいているようでした。
この家族経営農場は中国の単位で40歩、(「中国の一歩」は日本の200歩に相当するとのこと)、従って、”日本の単位だと8000歩=2町6反”ですが、家族4人暮らし、従事者は家族労働2人と雇用労働5人。農作物は「ハウスでのさくらんぼ」と「野菜のハウス栽培」で、耕運機は日本の50年代の耕運機なみの旧いものがまだ活動していました。
初めにこの農場の女性主人が30余年前の青年時に家族農業を申請した頃の営農の基準は、家族の農業従事労働力1人当りの土地割り当ては2歩(日本の単位では中国1歩=日本200歩であり400歩≒2反6畝)の基準で農地が貸与された。
しかし、その後の中国の経済発展の中での工業化で農業から離れる人が出てくる中で離農と高齢化がすすんだ。
従って、集団農場方式一辺倒から家族農業を取り入れた中国といえども、農家をどう持続可能にするかという点で農業従事者の高齢化へどう対応するかとういうテーマがありそうです。この農場の地区でも訪問先の女性主人(50歳台後半)の方が地区で一番若いそうです。
中国がWTOに加盟したころから、中国の大豆油の原料の98%が遺伝子組みかえ大豆ということです。世界でアメリカ資本が生産にかかわりつつ広げている安い?遺伝子組みかえ大豆が中国でも油用原料では国内産にとって代わられているそうです。
中国の人たちは(特に東北の旧満州は大豆の大産地)、国内産の非遺伝子組み換え大豆を油原料に復活させるためにチャレンジしている。東北農工大の王教授の話によれば、プレス機械製造の東方代表とも連携共同しつつ、中国の国内産大豆で食油を搾っても採算が合うように搾りカス(非遺伝子組みかえだから)を安心に安全な食品加工材料につかえるようにする計画をすすめてていると言います。
あの大豆の強大な産地・中国の大豆さえも安い遺伝子組みかえ大豆の攻勢の下では自活が危ない、まさにWTOの下での食の安全安心が壊されるというTPPの危険性を示唆する話でした。
ところで2015年8月末のいま、日本のスーパーなどでは、例えば国内米・栃木産の普通米を1380円/10キロから普通クラスで下はコシヒカリ2800円位ないし3800円で販売しています。少し銘柄品だと4000円以上です。(流山市の小規模スーパーにて)
市場施設での消費者への販売価格の50%が生産者価格で、そのあと卸がいくらとり、小売がいくらとるかは残りの50%の枠で決まる。卸が小売直売することで50%確保するのもあるようです。(日本でスーパーの店頭の何割を農家が取得できているだろうか)ここではサクランボだけで年間20万元(400万円)生産販売しているそうですが、7人で頭割りすると1人28500元(57万円)、消費購買力換算すると、日本の1/4以下の物価状況から言えば生産者所得は、日本の購買力比較では1人約230万円相当のサクランボ収入を得ていることになります。(サクランボのハウスはざっと見たところ3?4反位でしょうか)
ちなみに中国のサクランボは、日本のものよりは大粒で大味で、品質を日本市場の尺度で計ったら、日本のものを数段下まわると思います。
ここの農場の取材で見る限り、生産物の価格の保障や生産者取得分の率は日本の家族農業に比べより適正に農場から保障されている印象をうけました。
工場で働く人などが増え中国大連市郊外でも農業就業者が高齢化。しかし、家族農業は規模を拡大しているようです。
離農が発生し、耕作の肩代りがすすんだことにより、この農場では農地拡大がすすみ、今この農場は8000歩(日本の2町6反)となってきているのだということでした。
こうして、1983年当時は大連市郊外のこの地区に農家(家族農業)が400戸あったのが、2015年300数十軒、(90%)に減少、就業者年齢は50歳台は若い方になるという高齢化がすすんでいるということでした。
開発と、ITや工業の発展により労働力は不足状態といわれています。プレス機械の開発・製造の経営者、東方氏(中国人の方)の話では、大連だけでなく旅順港(軍港でなく貿易輸出入港)も東北の鉄道と岸壁で直結、高速道路も海上に建設中、更に遼東半島から青島(対岸の中国本拠地区)連結する海底トンネルの建設もはじまりつつある。これは中国東北部の経済が、北部(昔の北支方面)を迂回しなくても中国の本拠地へ直接つながるということになるようです。これは発展の一つの積極面ですが、反面、新たに生じつつある矛盾に目を投じなくてはならないのではないかと思えるのでした。
従って、一方で労働力は、いくらあっても足りない状況が今の中国の実情だと聞かされましたが、しかし、他方では、都市の住宅の異常な高騰や、かつての日本のモータリゼーションのように、自動車の普及と都市交通渋滞、大気汚染などは深刻で矛盾が渦巻いているような気がし、内外投資市場を通じた過剰投資は、必ず行きつく時がくるだろうし、次に向かってどう安定的な経済運営をすすめるかという、その時に、”住居、環境問題”などと共に”農業の抱える矛盾の打開”をどう位置づけるかなどが、浮上するのではないか。それはすぐ目の前のテーマになっているような印象を受けました。
例えば、大連市内のマンション価格は1平方メートルあたり1万元で日本円で20万円→坪64.8万円となる。(星海広場付近の高級マンションでは坪130?200万円)土地は国有であり70年貸与、これらのマンション建物はどれもスケルトン状態の価格で、部屋の建築・内装費は別負担枠ということです。
従って、多くの人は郊外からの自動車通勤などとなり、大連市の朝夕の交通渋滞は、動きが取れないほどで、大気汚染も深刻なようです。
これらの矛盾が、今後の新たな安定的発展の原動力となり得るかどうか、関心のわくところでした。
全国一般合同労組委員長 梶哲宏